スポンサーサイト

  • --/--/--(--) --:--:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

                

物理における抽象と捨象

  • 2010/11/04(木) 00:42:51

りんごの外見をそのままに描写していく形式の絵画を写実画と呼ぶならば、りんごの内面から最も印象的な一面を抜き出して画面に表現していく絵画、例えばりんごの深紅に本質を見出し、画面をどこまでも紅く染めあげていくような表現のことを抽象画と呼ぶ。りんごを描くという時に、具体物そのものを描くのではなく、自分の中でりんごというものを消化して、自分にとってのりんごとは何かを抜き出し、それを描いていくのが抽象画というものである。

物理学というものを絵画に例えてみるならば、それは自然の表層をあるがままに描く写実画よりは、自然に対して切り込みを入れてその深層の一面を抜き出してくる抽象画に近い。

例えば、ガリレオ・ガリレイが「物体の落下速度は、その物体の重さよらず一定である」という事を述べるために、ピサの斜塔から重さのことなる2物体を落下させて、それが同時に地面に着くことを示したという逸話がある。しかし、空気抵抗があることを考えれば、例えば鉄球と羽は同時には落ちっこないんだから、ガリレオの言うことは事実に反している。写実画的な立場から言えば、この物体落下の理論は、あるがままの落下現象から空気抵抗という存在を捨象したため事実と反しているのだということになる。しかし、そうではない。むしろ、ここでは抽象画の立場に立つべきで、ガリレオはあるがままの落下現象の中から、地球と物体との間の引力の働きのみを抜き出してきたのである。落下現象には地球の引力、空気の抵抗はもちろん、月の引力や、あるいは地球の裏側で蝶が羽ばたいた際のそよめきなど、様々な働きが関与している。それらの中から、地球の引力以外の影響を捨象したのではなく、地球の引力の影響のみを抽象してきたのである。

捨象と抽象を単なる行為としてみるならば、それは同一なる行為の異なる2側面に過ぎない。しかしそこに宿る意思を考えたとき、捨象と抽象では随分と趣が異なる。物理とはあるがままの世界の中から主体的に美を切り出していく営みである。その切り口を如何に選ぶか、ここには捨象ではなく抽象の意思が宿る。

僕は物理学がどれだけ進歩しても、この世の中の1%も分かりやしないと考えている。これだけ豊かな自然の中から、ひとつのキャンバスに表現できることなんて、ほんの断片でしかありえない。だとしたら、この自然の潤沢な実りを1つずつ捨て、削ぎ落としていくと考えるよりは、自然の中に埋もれている、汲めども尽きぬ美の欠片を1つ1つ抽き出してくると思うほうが、余程この大自然を享受できるというものだ。


話は逸れるようだが、物理では異なるモチーフを抽象した結果、同じ絵が描かれたりするのが面白いところだ。例えば木の葉の葉脈とリアス式海岸、まるで関係ないように思える両者からは、フラクタルという同一の概念が抽象されてくる。フラクタルに関してはここでは詳しく述べないが、こうして抽き出された概念を軸にして、再び自然へと目をやると、"もの"と"もの"の間の距離感がそれまで全く違って見えてくるから面白い。木の葉と海岸線、以前であれば全く並べて考えることなどなかった2つの"もの"が、フラクタルという概念を通して観ると、まるでキャベツとレタスかのように近しい"もの"に見えてくるのだ。人はオギャーと産声をあげたときには、まだこの世の中の"もの"に触れたこともなく、当然、自分にとってそれぞれの"もの"がどういう意味を持っているのかなんて分かりはしない。そのころには、レタスとキャベツの差なんて分からない、言わばレタスとキャベツの距離は0だと思っているかもしれない。しかし、レタスやキャベツを何度か食べるうちに、レタスはシャキシャキしていてキャベツはザクザクしているから、まあレタスとキャベツの間にはちょっと距離があるかな、なんていう風に、生活を経るにつれてだんだんと自分にとっての"もの"と"もの"の間の距離が定まってくる。そうして十数年も立つと、だいたい自分の中での"もの"との距離感というのは固定され、それにつれて、その固定された世界観に退屈を覚えてくる。そこに来て、突然、木の葉とリアス式海岸なんて、今までの人生では距離が遠すぎて並べてさえ見たことがなかったものが、まるで隣どおしに居るかのような距離感で現れてくるのだ。これまでに培い、いつしか凝結しかけていた世界観が、にわかに溶きほぐされ、世界が変遷変遷しはじめる。そうなると、まるで子供の頃に戻ったかのような気持ちで、この世界に遊び、この世界に踊ることができる。

なんだか本当に話がそれてしまったので、これについてはまた別記事で書こう。

スポンサーサイト

                

この記事に対するトラックバック

この記事のトラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事に対するコメント

この記事にコメントする

管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。